(第36回)それって病気?

西松 能子

身体表現性障害(身体症状症)の診断と治療

身体表現性障害とは

 日本語には、「失恋して胸が痛む」「金繰りがつかず頭が痛い」「あいつには腹が立つ」など、心の状態を身体で表す多くのメタファーがあります。日本人は自己主張をしない、自分の感情を表さない国民だと海外からは評価されていますが、自分の感情を表さない代わりに、「身体化症状(身体に出る症状)」で表す傾向があるのでしょうか。身体の状態で心の状態を表す多くの言葉があります。
 実は、国際的な診断基準では、心の悩みを身体で表現する状態を「身体表現性障害(身体症状症)」として扱っています。では、どのような状態を身体表現性障害とするのでしょうか。よく「びっくりして腰が抜けた」などと言いますが、すぐに歩き出すことができて日常生活の機能が障害されない場合には、どんなにめったにないことでも病気とはしません。もし、腰が抜けてそのまま歩けなくなる、ハッと息をのんでそのまま声が出なくなる、ということになると、これは「失立失歩」「失声」として身体表現性障害のうち、転換性障害の症状となります。
 身体表現性障害でよく見られる症状は、いわゆる不定愁訴(ある時から吐き気や頭痛がし始め、仕事に行けなくなってしまったり、日常生活が営めなくなってしまう、あるいは原因を探そうと多くの病院を受診し、仕事どころではなくなってしまう)です。身体表現性障害の多くの例は、ありふれた身体的症状のために、日常生活が営めなくなります。実際、家族の中で何年も葛藤状況があり、常に胸やけ、腹痛の症状を抱え、長年内科で胃薬を処方されていて、ある時期から眠れなくなり、かかりつけの内科医から精神科に紹介され、そこで身体表現性障害という病名がつくこともあります。

現実のストレスに取り組む

 Aさんの場合を考えてみましょう。Aさんは、3歳年上の夫と結婚して30年近くになります。20代の子どもと4人家族ですが、夫とはこの10年ほどほとんど口を利かないで暮らしています。「身分違いだ」という家族の大反対を押し切って恋愛結婚したのが噓のようです。結婚するまでは、夫はとても優しく、穏やかな人に見えました。長女が生まれた頃に、自分たちの家よりも姑の家を先に購入すると夫が言い出したことに反対した頃から、すっかり夫婦仲は冷えていきました。「家事の手際が悪い」「馬鹿だ」「世の中のことを何も知らない」「のろま」などと口を開けば批判するので、もう10年以上、仕事に忙しい夫の不在中に自分一人で全て片付けるようにしてきました。


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